昔、50年ほど前にシロという雑種と暮らしていました。
その頃私は、父と母が住み込みで働く旅館に住んでいました。
シロは、とても賢く頼もしい犬でした。
ある日、けんちゃんと私はシロと散歩に出かけました。
雨合羽を着た大柄な男の人が、シロをちょっと蹴飛ばしました。
シロは、怒ってちょびっとその人のふくらはぎを咬みました。
そして先に帰っていきました。

そうするとその人は、「お前らの犬か」と聞いたので私たちは、とっさに「違います」と返事をしてシロが見つからないようにしました。
だけど大人は、しつこくて、とうとう旅館に電話をかけてきて、
「オレを咬んだ犬はそこの犬やというのはわかっている。あの犬を保健所に連れて行かな商売できやんようにしてやる」
と言われ、シロは保健所に連れて行かれてしまいました。

私は、給食のパンを残し、シロに食べさせようと保健所にいきました。
保健所の犬房はブロックで全部が囲まれていて高い所にブロック1個分の窓のような所があり、私は、辺りから登れそうな木片を拾って来て、よじ登って、その窓のような所から中を見るとシロの何倍も大きな犬が2匹いて、シロぐらいの犬が3匹、そしてシロもいました。
みんな凄い勢いで吠えていましたが、シロは私のことがわかったのか吠えませんでした。
私は、なんとかシロにパンを食べさせようとしましたが、シロより大きな犬がみんな食べてしまいました。
その時のシロの顔を今でも思い出します。
この写真は保健所から引き取った晴朗ですが、私の覚えているシロは、もっと悲しそうな顔をしていました。

50年も前ですからシロは、撲殺されたのかもしれません。
シロへの償いになるかも知れない と思ってみたりしますが、どれだけの犬を保護しても後から後から飼い主に棄てられた犬が保健所にやって来ます。
雨合羽の大柄な人は、もう亡くなっているでしょう。
そして、シロも私のもとに戻ることはありません。
50年先も同じ日本で良いのでしょうか。